日向湖エリア

漁師の人情を感じる、
湖畔の漁村

HIRUGA LAKE
area

若狭湾と直接つながる日向湖(ひるがこ)は、
三方五湖のなかでもっとも塩分濃度が高い
湖として知られています。

民宿や漁師の家屋が建ち並び、
昔ながらの風景が色濃く残る漁村で、
日々海の豊かさ、
厳しさと向き合っている日向の人たち。

豊かな海の幸とともに、
人情味あふれる漁師たちの生きざまにも
ふれることができます。

Story

Story 02.

日向湖エリア2024.04.26

一年の豊漁と海の
安全を願う
「日向水中綱引き」

漁村に伝わる豊漁祈願

若狭湾に面した日向は、漁業が盛んな集落。昔から豊漁を願う独自の文化や風習が残されている。「水中綱引き」は、そんな日向を代表する伝統行事のひとつだ。

水中綱引きが行われるようになったのは今から約360年前のこと。その昔、日向湖と若狭湾を繋ぐ運河に大蛇が出て川を塞いでしまったという。蛇は自分より大きいものを恐れる性質があることから、村人が藁で大きな綱を造り運河に張って防いだ言い伝えがあるそうだ。そこから縁起の良い綱に少しでも触れようと引き合ったことから、海上安全と豊漁を祈願する行事として今も脈々と集落で受け継がれている。

毎年1月には地元の青年たちが運河に飛び込み、東西に分かれて綱が切れるまで競い合う。年に一度の行事に全身全霊を捧げる若者たち。国選択無形民俗文化財にも認定され、各地から見物客が多く訪れるようになった。では、私たちもその1日をのぞいてみよう。

長床で編み上げる大綱

まだ静かな日向湖。この日は朝から小雨模様だった

長床では朝5時から準備が進められていた。天井の金具に吊るし、
掛け声とともに綱を編んでいく

藁を差し込む人や綱を引っ張る人、支える人の連携プレーがしっかりしているのは、普段から漁業で鍛えられているからだろうか

午前6時、まだ日向湖の湖畔は暗く静かだが、稲荷神社の“長床”と呼ばれる集会所ではすでに熱気が立ち込めていた。集落の男衆が集合し、この日使われる綱をいちから編んでいくのだ。

「よいやさー!よいやさー!やーさのどっこい!」

大きな掛け声と足踏みに合わせて4人がかりで藁を挿し込み回りながら編み上げる。直径30センチ、長さ約40メートルの大綱を編むのには3時間以上かかる。綱が簡単にほどけないようきつく締めるので、見た目以上に重労働だ。

水中綱引きは女人禁制の行事といわれているのでやや緊張しながら見学させてもらったが、張り詰めた雰囲気はなく男若衆は酒を飲んだり談笑したり、いたって和やかだった。今年初めて参加する男性には先輩が丁寧に教えるなど、その文化が脈々と受け継がれているのを感じる。

綱を編む最中には途中何度も小唄が挟まれる。この間に男若衆は綱の不具合を直したり、少し休憩したりする。
見学していた我々も一曲歌わせてもらった

集落をあげて準備が進む

午前10時、編み上げた大綱を全員で抱えて神社から日向橋まで移動し、日向湖と日本海を結ぶ運河に渡された。日向の漁村の象徴である大漁旗が掲げられ、空に色とりどりの旗がはためく姿を見ると、一刻とその時が近づいているのを感じ、気持ちが高まっていく。

運んでいる様子を見ると、あらためて編み上げた綱の長さを実感する

集落の年長者の掛け声で橋の上から御神酒とともに綱が落とされ運河に渡される

漁業を生業とする日向の象徴、大漁旗が空に掲げられた

いくつもの旗が日本海の強風に煽られながら力強くはためく姿は
圧巻であり見どころの一つ

昼近くになると、にわかに周辺も活気づいてきた。運河の近くには集落の人たちによってうどんやブリ汁などの屋台が出ており、見物客は日向の味覚を味わいながら冷えた身体をあたためる。

コロナ禍などの影響で、見物客を伴って大々的に開催するのは4年ぶり。「やっぱ大勢の観客がおらんとこの行事は盛り上がらん」と集落の人たちの嬉しそうな顔が印象的だった。

集落に住む女性たちによって日向の味覚がふるまわれる

水中綱引きではこの日にしか飲めない三宅彦右衛門酒造「早瀬浦」の
大吟醸濁り酒が登場する

竹でできた杯で飲むのが恒例。濁り酒でありながらスッキリとした
早瀬浦らしい味わいにほんのり竹のさわやかな香りがだたよう

極寒の運河に飛び込む男若衆たち

長床でも着々と準備が進んでいた。男若衆は色とりどりのハチマキとさらしの腹帯、白パンツ姿に着替え、その時を待つ。宇波西神社に参拝した漁協関係者たちが戻り一同が長床に集結すると、再び景気付けの酒盛りがスタートした。

色とりどりのハチマキとさらし、白パンツ姿に着替える男若衆たち

その間、漁協幹部など年配の漁業者たちは海上の安全祈願と豊漁祈願のため宇波西神社に参拝する

長床に集まり、祭礼唄である「伊勢音頭」を全員で唄う

「よっしゃいこかー!!」ここからは男若衆の覚悟が決まったタイミングで神社を飛び出していく。

神社から橋までは約100mほど。橋の上や両岸はすでに多くの見物客で埋まっており、男若衆が登場するのを今か今かと待ち侘びていた。

極寒の運河に飛び込む前に、酒を飲み干し身体を清める男若衆たち

午後2時過ぎ、神社から男若衆が登場し橋の上に到着すると、沿道の盛り上がりは最高潮に。運河に飾られた大漁旗が強風で大きくなびく中、威勢の良い掛け声を上げて次々に運河に飛び込んでいく。

10数名の男若衆は東西両岸につながれた綱まで泳ぎ、冷たい水の中で「よいしょー!!」という掛け声とともに綱を引っ張る。綱引きというと両側から引っ張り合うのを想像するかもしれないが、正確には引きちぎるといった方が正しい。

時間にして10分ほど。綱が引きちぎられると大きな歓声があがり、綱は海の神に奉げるために外海に流されていった。

男若衆が飛び込むたびに大きな歓声があがる

綱まで約50mの距離を西岸・東岸に分かれて泳いでいく

しっかり編み込まれた綱をむしりとるようにして引きちぎっていく

岸からは年長者の激励が飛ぶ。周りの見物客も固唾を飲んで見守る

男若衆は寒さに身を震わせながら再び稲荷神社へ。お参りをし、米の奉納をもって熱気に包まれた水中綱引きは幕を閉じた。

360年以上にわたり海上安全と豊漁を願い身体を張る日向の男たち。人と自然が共存してきた歴史は伝統行事というかたちで現在に引き継がれ、次世代に紡がれている。

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